感想:「育休世代」のジレンマ~女性活用はなぜ失敗するのか?~
著者:中野 円佳
★★★☆☆
修士論文を本にしたものらしい。それだけを聞くと博士過程中に本を書いたのか?すごいなぁ、みたいな感想を抱いたが、実際は新聞社に勤められていて、社会人ドクターみたいな形で書き上げたそうだ。社会人をしながら研究室で研究となると、理系なら社会人ドクターが一般的だが、文系は修士なのかな?理系だと修士号はアカデミック的にはそんなに価値がないけど文系だとどうなのかな?という単純な疑問を持ちつつ…。
内容は、15人の育休経験ママにインタビューして、現在の子育てと女性の労働の状況を分析している。タイトルはジレンマ(バリキャリで働きたいけど働き続けるのが難しい)とまとめているが、問題点は多々あるもののジレンマではない気がする。
良かった点は、15人の生の声があるということ。15人で統計的にどうこういうのが無理があるが、それでもそれなりの幅をもったピックアップで、出産・育休後の進路(会社の制度に対して、続ける、辞める)としてのパターンを確認できた。
悪かった点は、15人の状況が一般社会からかけ離れていること。年収基準で行くと上位5%ぐらいの位置づけ。基本的に本人が500~600万前後の年収、夫が600~700前後の年収で夜遅くまで毎日残業。で、入社時は基本全員バリキャリ志望。それなりの大手総合職同士の共働きでないと得るものが少ないんじゃないかな?逆にその辺に位置している人には参考になる。著者自身がここのプールに含まれ、自分の出産育休を経験し、色々思うことがあったのだろう。この本を出すにあたっての動機にはすごく納得させられる。
バリキャリ女子が子育てしながらバリキャリで働くには
育休復帰後の会社の対応
①子供関係なしに男性と同じ働き方を求められる。
②過度に気を使われ、難しい・責任のある仕事を回されなくなる。
③会社・上司の理解があり、①②の中間ぐらいで時短勤務で働く。
大きく分けてこんな感じの印象を受けた。今は女性の働きやすさみたいなことがめっちゃ言われているの③の会社が増えてきている印象だ。ただ、③でも問題なのが、結局は男性は長時間労働をしてバリバリ仕事をこなしてしまっているせいで、それなりの責任感のある仕事をまかされていても、同期の男性を比較すると出世コースから外れてしまうこと。本書の中ではそもそも比較対象にすらならなくなるとあった。
育休や保育園などの制度が整えられることはもちろんだが、一番の問題は、男性が長時間労働できてしまう社会・慣習である。競争社会である以上、量(労働時間)が絶対的に必要なのも間違いないなく、一律に減らすなんてことはほぼ不可能で…。資本主義社会である限りダメなのではないかと思えてきた…。
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