可視化されにくい『最貧困女子』
2015/01/10
「最貧困女子」とは、家族・地域・制度(社会保障制度)という三つの縁をなくし、日蔭で日銭を稼ぐしかない女性たちのこと。可視化されにくい彼女らの抱えた苦しみや痛みをルポライターである著者が記したのがこの本です。
マイルドヤンキーやプア充といった貧乏なりにうまくやりくりして充実している女性たちがマスメディアで取り上げられる一方で、最貧困女子がさらに理解されづらく、可視化されにくくなっていることに衝撃を隠せませんでした。
人は低所得に加えて「三つの無縁」「三つの障害」から貧困に陥る
三つの無縁・・・家族の無縁・地域の無縁・制度の無縁
三つの障害・・・精神障害・発達障害・知的障害
三つの障害は、それ自体で貧困になるのではなく、それによって三つの無縁につながり、結果的に貧困に陥るといった感じです。
著者がインタビューしていることが、この少女達にとって最大のチャンスであるにもかかわらず、無縁によって普通の教育が十分受けられておらず、さらに貧困から心も消耗している状態だと、人であれば出来るような考える力やコミュニケーションが失われてしまっている状況にただただ茫然としました。
貧困と貧乏の違い
貧乏とは、単に低所得であること。低所得であっても、家族や地域との関係性が良好で、助け合いつつワイワイとやっていれば、決して不幸せではない。一方で貧困とは、低所得は当然のこととして、家族・地域・友人などあらゆる人間関係を失い、もう一歩も踏み出せないほど精神的に困窮している状態。貧乏で幸せな人間はいても、貧困で幸せな人はいない。貧乏と貧困は別物である。
一般的な家庭で育った僕としては、日本での貧困と貧乏については考えてもいなかったです。貧困はアフリカ等の飢餓に苦しむ人々を指し、貧乏は日本みたいな国における貧しい家庭みたいに、勝手にフィルタリングしていました。
自分の周りの世界しか見ていなかった自分を恥ずかしく思いました。この点においてだけでも本書を読んでよかったと思います。
最貧困女子を救うには…
最後の著者の意見に賛成ではあるのですが、最貧困女子の救済を考える上では、そこまで有効とは思えないんですよね。最貧困女子には容姿や障害といったハンデを背負っている人が多く、結局は新しい体制からこぼれ落ちるのは目に見えていると思います。
一番のベースにある、シングルマザー等の家庭での貧困や虐待といったものから解決の糸口があればいいのだが…
助けてくださいと言える人と言えない人、助けたくなるような見た目の人とそうでない人、抱えている痛みは同じでも、後者の痛みは放置される。これが最大の残酷だと僕は思う。
最後に著者の苦痛の叫びが聞こえてくるようでした。著者は、この本によって最貧困女子が可視化され議論の話題にあがることに貢献できていますが、読者はどうしたらいいのだろうか。
第一段階としては現状を受け止めることだと思いますが、実際にどんな行動ができるのかと考えても絶望しか思い浮かびませんでした。
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