感想:日本人の9割が知らない遺伝の真実
著者:安藤 寿康
★★★★☆
橘氏の「言ってはいけない 残酷すぎる真実」のヒットに便乗した本書。根拠となるデータは本書の著者の研究データということもあって、個人的にはこっちの本のほうが好きかな。今更ながら読んだのは最近読んだ荒川氏の「「居場所がない」人たち」の中で引用されていて、復習も兼ねて読んでみたかったから。
前半は双生児法での各パラメータ(身長、知能、スポーツ等)の遺伝影響率のデータによる説明。後半は前半での結論が遺伝の影響は無視できない中での教育の在り方の提案。個人的には後半部分はあまりしっくりこなかったかな。でも前半だけでも十分に価値のある内容と思う。
9歳時点での学力に関しては、遺伝65%、共有環境(家庭内など)10%、非共有環境(学校など)25%という結果。個人の感覚としては、この数値はけっこうしっくりくる。ただ統計学的な平均数値であって、標準偏差や分散の話がなかったから、個人差としてはどの程度なのか判別できなかったのはいまいち。対照実験で導き出した結果だから、どんな個人に対しても、「あなたの学力のうち65%は遺伝の因子で説明がつく」ということでもいいのかもしれない。得意分野ではないのであまりわからない。
そのうえで、あくまでも自己責任論を背景に、大学入試などの一律の学力テストで人を評価するシステムは、確かに問題と言えば問題。一方で生物学的にみると、今の知識社会だとそういう個が生き残りやすいってだけのシンプルな理論でいいとは思うけど。
もう1つ興味深かったのは、上記の遺伝率は、歳をとるほど影響が強くなるというもの。確かに共有環境が薄れていくのは理解できるが、非共有環境も減り遺伝が強くなるようだ。あまりにも残酷だ。配られた手札が良かったらその中で戦えるけど、それだけの手札がない場合は本当にどうしようもない。
小さい子供を持つ親の視点としても、親として子供にしてあげれることは少ないとは思ってたが、なかなかつらい現実を感じる。実際に子供を見ていても、生まれた瞬間からある程度の人生が決まっているよう感じる場面も多々あった。
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